姫君が六条院へ移って行くことは簡単にもいかなかった。 まずきれいな若い女房と童女を捜し始めた。 九州にいたころには相当な家の出でありながら、 田舎へ落ちて来たような女を見つけ次第に雇って、 姫君の女房に付けておいたのであるが、 脱出のことがにわ…
「困るね。生きている人のことでは私のほうから 進んで聞いておいてもらわねばならないこともありますがね。 たとえこんな時にでも昔のそうした思い出を話すのは あなたが特別な人だからですよ」 こう言っている源氏には故人を思う情に堪えられない様子が見…
【源氏物語729 第22帖 玉鬘29】姫君自身は、実父の手から少しの贈り物でも得られたのなら嬉しいであろうが、知らない人と交渉を始めようなどとは意外であると贈り物を受けることを苦しく思うふうであった。
姫君自身は、こんなりっぱな品々でなくても、 実父の手から少しの贈り物でも得られたのならうれしいであろうが、 知らない人と交渉を始めようなどとは意外であるというように、 それとなく言って、 贈り物を受けることを苦しく思うふうであったが、 右近は母…
「短いはかない縁だったと、私はいつもあの人のことを思っている。 この家に集まって来ている奥さんたちもね、 あの時にあの人を思ったほどの愛を感じた相手でもなかったのが、 皆あの人のように短命でないことだけで、 私の忘れっぽい男でないのを見届けて…
「私はあの人を六条院へ迎えることにするよ。 これまでも何かの場合によく私は、 あの人の行くえを失ってしまったことを思って 暗い心になっていたのだからね。 聞き出せばすぐにその運びにしなければならないのを、 怠っていることでも済まない気がする。 …
「発見したって、どんな人かね。 えらい修験者などと懇意になってつれて来たのか」 と源氏は言った。 「ひどいことをおっしゃいます。 あの薄命な夕顔のゆかりの方を見つけましたのでございます」 「そう、それは哀れな話だね、これまでどこにいたの」 と源…
灯《ひ》などをともさせてくつろいでいる源氏夫婦は美しかった。 女王《にょおう》は二十七、八になった。 盛りの美があるのである。 このわずかな時日のうちにも美が新しく加わったかと 右近の目に見えるのであった。 姫君を美しいと思って、 夫人に劣って…
右近は旅からすぐに六条院へ出仕した。 姫君の話をする機会を早く得たいと思う心から急いだのである。 門をはいるとすでにすべての空気に 特別な豪華な家であることが感ぜられるのが六条院である。 来る車、出て行く車が無数に目につく。 自分などがこの家の…
これだけの美貌《びぼう》が備わっていても、 田舎風のやぼな様子が添っていたなら、 どんなにそれを玉の瑕《きず》だと惜しまれることであろう、 よくもこれほどりっぱな貴女にお育ちになったものであると、 右近は少弐未亡人に感謝したい心になった。 母の…
「どうしてもお亡《かく》れになった奥様を 忘れられなく思召《おぼしめ》してね。 奥様の形見だと思って姫君のお世話をしたい、 自分は子供も少なくて物足りないのだから、 その人が捜し出せたなら、 自分の子を家へ迎えたように世間へは知らせておこうと、…